五十三候 小雨ときどきふる

秋から冬にかけて、京都盆地の北部には北山時雨がよく降ります。
そんな時にたまたま鴨川を通りがかり、北山の方角を眺めると
山々が霧雨に煙って、ぼんやりとした雨のフィルターがかかっている
ようです。
文字通り、時雨と言われるように、さーっと通り雨になることが多く、
その後日が差したりすると、思いがけず大きな虹が掛ることもあります。
これからどんどん日が短くなって寒さも増す季節ですが、ほんわかと
気持ちの晴れる虹のひと時は、自然からの贈り物ですね。


雨の北山

五十二候 霜始めて降る

寒い地方ではもう霜が降りているのでしょうか。
京都では数日前は朝夕に急に冷え込んで、暖房が欲しい程でしたが
昨日今日はまた暖かくなって、ダウンジャケットを着た寒がりの人
がいるかと思えば、タンクトップの元気な人もいたりして、こちら
のクローゼットの中も夏、秋、初冬の服が同居しています。
霜の降りる前の11月末には寒さに弱い植物を屋内に入れますが、
紅葉もその頃から色づき始めるのではと思います。
ちなみに、霜と名の付く植物にシモバシラがあります。
今頃の季節ですと地味な花も終わって、目立たない草ですが、真冬
の冷え込んだ朝には、茎を縦に長く白い霜柱が覆って、ちょっと珍
しい氷の造形が見られます。
言葉ではうまく説明出来ないので、京都府立植物園のシモバシラの
去年の記事のリンクをこちらに貼りました。
京都府立植物園公式ブログ: この冬、早くも!シモバシラが見頃です


今の季節のシモバシラ

五十一候 蟋蟀戸にあり

蟋蟀はコオロギともキリギリスとも読めるようです。
家の中で何か物を動かした時に思わぬ所からコオロギが飛び出して
くる事があります。リー、リーと鳴いていたのは君だったの!と思う
ような小さな虫ですが、ラストエンペラーという映画の中では、
コオロギを戦わせるシーンがありましたね。
そういえば日本のどこかの地方では、蜘蛛を戦わせる相撲もあると
聞きました。
さてキリギリスのほうは、イソップ童話を連想します。
アリがせっせと働いている傍で、キリギリスは遊んで暮らしている
うちに冬が来て、アリに助けを乞うても結局見捨てられて死んで
しまったという、遊び人には身もふたもないお話。
それでは残酷過ぎると、最後にはアリがキリギリスを助けるという
バージョンもあるらしいのですが、、、
働きアリが懸命に働いてもギリギリの生活で、とてもじゃないけど
弱ったキリギリスなんて助けるどころではないのが、今の現実。
大金持ちのコガネムシはお金儲けに忙しいので、キリギリスを助け
ようなんて思いませんよね、たぶん。


北斎漫画

五十候 菊花開く

この場合の菊は栽培菊のことでしょうね。
これからあちこちで菊花展も開かれます。
こんなことを書くと菊の愛好家から怒られそうですが、
厚物というのでしょうか、頭でっかちの大きなモコモコ
とした大輪菊があまり好きになれません。
菊にしても、金魚にしても、人の手をかけ過ぎて、元の
姿からうんとかけ離れてしまうと、本来の良さが無くなる
気がします。
それでも菊作りを趣味にしている人はわが子を育てるように
丹精込めておられるのでしょう。
菊好きといえば、後鳥羽上皇はことのほか菊を愛したという
ことですが、当時はハイソな花だったのでしょうね。
逆に、平清盛は蓬(ヨモギ)が好きで庭にも植えていたとか。
人の好みは色々ですね。
野菊を庭に植えるなら、アシズリノジギクがお勧めです。
地味ではありますが、ほっておいても毎年霜が降りる頃まで
長い間咲いてくれます。


ノコンギク 京都植物園

四十九候 鴻雁来る

あいにく京都市内では「鴻雁」を京都市動物園以外では見た事が
ありませんが、お隣の琵琶湖では、9月20日にもうヒシクイが飛来
したというニュースが届いています。今年は2週間早いとか。
雁といえば、落雁という和菓子の由来は、昔の製法では胡麻を散ら
した様子が雁の降り立つ様を連想させるからとか。
とても優雅なネーミングですね。
これからの季節におでんで美味しい「がんもどき」も雁の字が入って
います。
隊列を組んで飛ぶガン達で思い出すのは、スウェーデンの「ニルス
の不思議な旅」のお話です。
少年が妖精の魔法で小人にされ、飛べないはずのガチョウに乗って
通りがかったガンの群れと旅をするのですが、群れのアッカ隊長が
雌のガンで、とてもリーダーシップがありました。
鳥の背に乗って旅をするというのも、想像してみるとなかなかスリル
があって面白いでしょうね。
ロード・オブ・ザ・リングに出てくる巨大鷲に乗ったなら、乗り心地
もファーストクラス並みに良いことでしょう。



雁図 円山応挙

四十八候 水始めて涸る(みずはじめてかるる)

水が涸れる時期とすれば、夏の日照りの時ですが、どうやら
七十二候では、川の水量が減るという意味ではなく、稲の収穫
の為に田の水を抜くいう事らしいです。
黄金色の稲の穂が重く実っている光景は、沢山の手間と苦労を
考えると、お米を丹精込めて作る農家の人はもちろん、主食に
している多くの日本人には感慨深いものがあります。
それでも、食事の洋風化によって、パスタやパンがお米に取っ
て代わる事まではないにしても、今の若い人の中には、お米に
対してそんなに思い入れはないかもしれません。
お米といえば、先日、収穫間際の田んぼの横を通った時に、雀
の大群が稲を食べ放題に啄んでいる所に出くわしました。
雀にすれば、田んぼにわざわざ餌を作ってくれて、さあ存分に
お上がりなさいという訳です。
鳥除けテープも張ってあったのですが、効果がない様子でした。
多分、案山子を立てても鳥達には見破られているのではないで
しょうか。


嵯峨野の案山子

四十七候 虫かくれて戸をふさぐ

ちょっと早すぎるのではありませんか!と言いたくなるほど、まだ虫達も
蜘蛛もヤモリも元気です。昔の人は気が早いですね。
それでも朝晩はめっきり涼しくなって、庭仕事が楽になりました。
でも油断していると、温度が上がる昼間には、子孫への生き残りをかけた
ヤブ蚊の猛アタックに襲われる今日この頃です。
蚊やゴキブリや蜘蛛や蜂は毛嫌いされても、鈴虫などの鳴く虫はそんなに
嫌われないのは、人間の身勝手と言うほかありません。
ちなみに、京都には鈴虫寺と呼ばれるお寺が洛西の苔寺の近くにあって、
ここでは一年中鈴虫の声を聞くことが出来ます。
30年程前にはひっそりとしたお寺でしたが、今は有名な観光スポットと
なっています。
とはいえ、鈴虫の声は秋に聞くからこそ風情があるのにと思いますが、、、


空に浮かぶ蜘蛛